永井俊哉

私たちは、現在、グローバル社会という、巨大なネットワーク社会の中で生きている。異質な人と人との自由な出会いから、この地球上では、絶えず新たなネットワークが生み出されている。そうした、グローバルなネットワーク社会の方が、例えば北朝鮮のような、グローバルなネットワークから孤立して、上から情報統制をしている社会よりも、競争力がある。北朝鮮の一般市民が貧困に苦しんでいるのは、決して、彼らが怠け者だからではない。むしろ、日本のフリーターなどよりも熱心に働いているに違いない。それでいて、彼らの生活水準が、日本のフリーターのそれに及ばないのは、彼らが、複雑系がもたらす技術革新の恩恵に浴していないからだ。 ボスザルならぬボス教授が専制支配する閉鎖的な研究室で、狭い専門の殻に篭って研究を続けていても、新しい知のパラダイムは生まれない。アカデミズムの人たちは、「地道な研究をこつこつ続けていれば、必ず成果が現れる」とよく言うが、ネアンデルタール人や北朝鮮の人々がいくら重労働に励んでも、飢餓から抜け出すことができなかったように、視野が狭ければ、研究者は知的飢餓状態から抜け出すことはできない。私が、意図的に様々な領域の学問を取り上げ、知の新しいネットワーク化を目指しているのは、知性とはネットワークを創発させる能力だと認識しているからである。